Learn by Experience
一夜にして時の人となるような人間は、もともとスパースターになるべく才能と潜在能力を兼ねそろえているものだ。
しかし、その他多くの人間は、毎日コツコツ努力をし、度重なる失敗を乗り越え、“経験”という最高の武器を手に入れながら、少しずつ少しずつ成功への階段を上っていく。
そうやって手に入れた地位につく人間は、一夜にして成功をおさめた人間よりも、それはそれは粘り強く確固たる地位を築くものである。
ぼくは、高校を卒業してから4年間、一度もマウンドに登ることはなかった。夢を語ることをあきらめ、別の道に進んだ負け犬だった。
しかし、突然の直感でアメリカに渡り、4年振りのマウンドでぼくは最高のピッチングを見せ、初めてプロ契約を結んだ。
しかし、意気揚々と迎えたスプリングトレーニングでリタイアし、ぼくは開幕直前にチームを去った。絶対にもう一度アメリカに挑戦してやると決意し、それから本格的にトレーニングを始めた。
そして、迎えた翌年の春、またしてもぼくは最高のピッチングを見せ、トライアウトに合格した。しかし、ビザの取得が難航し、開幕直前に契約交渉は決裂した。
『確かに、テストは上手く切り抜けたが、野球のシーズンは100試合以上をこなさなくてはならない。お前は4年間もブランクがあるんだから、まだまだプロとしてシーズンに参加させるわけにはいかない。』
テストに合格しながらシーズンに参加できない苛立ちはあったが、これがぼくの人生を左右する神様の判断だと、今は認識している。
そして、今年、三度トライアウトで最高のピッチングを見せ、今度は正真正銘プロ野球選手としてシーズン参加が許された。
『2年間も待ったんだ。その間たっぷりトレーニングも積んだし、投げる球も2年前とは見違えるように変わった。精神的にも大分強くなったし、この2年間を取り戻すべくすぐに結果を出さなければ。』
これが、知らず知らずのうちに抱いていた、ぼくの心の声である。
そして、迎えたデビュー戦、ぼくは3イニング大量失点でノックアウトされた。リベンジを誓ってトレーニングを続けたが、数日後に解雇。2度とその機会はやってこなかった。
練習生として過ごした1ヶ月半は、1人孤独な練習に耐え、来る日も来る日も観客席で試合を見せられた。
『まだまだ、お前には1シーズンを乗り越えるだけの技術と体力はない。過酷な環境で体をつくり、試合を見ながら技術を盗め。たくさん痛い目にあって、そこから多くのことを学べ。』
正直かなり落ち込んだし、自信もほとんど失ったが、これがたった一度でぼくを解雇した神様の意図だろうと今は感じている。
そして、訪れた2度目のチャンス。一日がかりの長旅をして、2度トライアウトを受けて、ようやく辿り着いた場所だった。
『残りのシーズンは1ヶ月を切った。万全の準備をしてきたし、もう怖いものはない。あとはピッチングに集中するだけだ。そうすれば、すぐに結果は付いてくる。』
これが、ぼくの意気込みだった。しかし、何度投げても失点する。思い切り投げても打ち返される。コンディショニングも上手く行かず、体中に痛みが走るようになった。
頭では分かっているのに、体がついてこない。そして、また、せっかく取り戻した自信が揺らぎ始める。この繰り替えしで、今シーズンは幕を閉じてしまった。
本当に悔しかったし、まったくの不完全燃焼で終わってしまった。やりたいことはもっとたくさんあったのに、チャンスを掴めなかった。ぼくの理想は、こんなはずじゃない。
階段を上りきった人たちからすれば、これこそまさに“経験”の道筋であると理解できる。どんな状況でも最高のパフォーマンスをするために、今は“経験”を積んでいる段階なのだから。
しかし、経験不足の人間からすれば、今まさにこの瞬間が将来の何に役立つのか定かではない。だから、すぐに階段を駆け上ってやろうと意気込むし、ときには何段か飛び越えてみようとする。
結局、ぼくの人生は、一段抜かしで階段を駆け上がることなんてできないんだろう。飛び抜けた才能も恵まれた肉体もないんだから。
ぼくは、アメリカ人に比べ体が小さく、スーパースターのような才能に恵まれなかったからこそ、人と違うところで勝負するために人一倍努力し、オンリーワンを求めて試行錯誤してきた。
2年間待たされたことで、今回はとくに焦りすぎたのかもしれない。すぐに結果を求めすぎたところもある。
だから、理想どおり行かないことでフラストレーションをため、自分をまったく評価してあげなかったことで、自らを追い詰めてしまった。
でも、『みんな誰だって失敗を繰り返して大人になって行くんだよ。今は階段の上にいる人たちだって、みんなお前と同じ経験をして上がって行ったんだ。』
そんな言葉が、とても心に響いた。もしかしたら、4年前のあのマウンドと比べたら、今回のこの成績も上出来だったのかもしれない。あのときは、何も知らなかったから。
この失敗をばねにさらなる努力を続ければ、後悔することも失敗の言い訳を口にすることもないはずだ。必ず、来年証明してみせる。
ぼくは、まだこの世界ではルーキーだから、何もかもが初めての体験で、戸惑いや不安、恐怖や困難がこれからも次々とやってくるだろう。
でも、その経験から多くのことを学び、決して上ることをあきらめなければ、きっとぼくも階段の上に行けるし、あのときの一歩が正解だったとわかるはずだ。
今回、多くのサポートをしてもらったのにも関わらず、みなさんの期待に答えられなかったことは本当に申し訳ないと思っています。
少なからず、子供たちの希望を後押しするだけの成果をあげられなかったことは深く反省し、次回に生かさなければならないと痛感しています。
今後は、みなさんに夢を与えられるような選手になれるよう更なる努力を重ねていくつもりです。どうか、それまでみなさんの愛とパワーをぼくにわけてください。
絶対に証明してみせます。誰だって夢は叶えられるということを‥。
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