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2007年9月 7日 (金)

The Veteran

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今年も多くの仲間に支えられ、新たな仲間と出会い、無事今シーズンを終了しました。野球の技術も然ることながら、人との出会いもまた将来に渡って貴重な財産になります。

そんな中で、今シーズン誰よりもぼくを可愛がってくれ、誰よりもぼくにいろいろな経験をさせてくれた人を紹介したいと思います。

彼の名前は、“ダラス・メイハン”。コロラド州デンバー出身の左投げ投手です。

彼は、今年現役を引退し、前半戦はピッチングコーチとしてチームを支えていましたが、チームが絶不調だったこともあり、後半戦は先発ピッチャーとして現役に復帰しました。

彼は、高校卒業と共にドラフトされ、3年間シアトル・マリナーズ傘下のマイナーリーグでプレーしました。その後、2回の手術を経て、独立リーグで9年目のシーズンを迎えています。

今年で30歳にしてマイナー歴12年は尊敬に値しますし、彼のピッチングや野球選手としての心構えは本当に勉強になります。

ブルペンで待機しているとよく子供たちが声をかけてくるのですが、彼にだけは自然と「Yes,sir.」と敬語を使ってリスペクトしているのをよく見かけます。

彼との出会いは、ぼくが初めてジョーズの練習に参加したとき、一緒に話そうと向うから話しかけてくれたのが始まりです。

そこで意気投合し、それからは遠征の部屋も休日も、食事もウォーミングアップも常に一緒に行動していました。

ぼくは携帯電話を持っていないし、部屋ではひとりのことが多かったので、いつも彼はぼくを迎えに来てくれ、いろいろなところへ連れ出してくれました。

だから、彼の口癖は「Trust me!俺を信じろ。」です。ぼくにとっては初めてのことばかりで不安そうな表情をしていたので、いつも彼はこう言ってぼくを盛り上げてくれました。

もちろん、裏切られたことは一度もありません。初めて行くレストランは、本当に美味しいものばかりでしたし、ぼくのお気に入りの食べ物はほとんどが彼と言った店のものです。

あとは、初めて湖に入って泳いだり、ハウスボートに乗ってクルージングしたり、教会にも行きました。その他にも、たくさんありすぎて書き切れません。

教会なんて衝撃でしたよ。日本でも、青山学院大学はクリスチャン系のため礼拝に参加したことはありましたが、アメリカではここ最近礼拝の形が大きく変わっているそうです。

礼拝離れが進む若者向けなのでしょうか、会場は教会と言ってもコンサート会場のように広く、ステージがあり、照明や巨大スクリーンで飾られ、ライブ会場のような雰囲気でした。

そして、賛美歌から始まるのかと思いきや、DJがディスクをスクラッチし、バンドが熱唱し、説教はコメディアンのようにおもしろトークをしてくれます。もちろん、聖書の教えを説いています。

セントルイスの田口選手が、アメリカに渡ってからクリスチャンになったらしいのですが、それも分かる気がします。正直、ぼくもクリスチャンになってもいいかなと思うぐらい楽しかったです。

もちろん、ピッチングのこともたくさん話を聞かせてもらいました。ぼくが、マウンドで最も大切なものは何か?と質問したら、「それは“冷静さ”だ。」と答えていました。

「終わったことは忘れること。ピッチャーは、いちいち感情が乱れるクレイジーな人間では務まらない。常に冷静にバッターと対戦しなくてはいけない。」と教えてくれました。

確かに、彼は冷静です。ランナーが塁に出てもまったく動じませんし、ケガの影響でパワーボールはもう投げられませんが、オフピッチとコーナーワークで全然点を取られません。

うちのキャッチャーは、フロリダ・マーリンズの2Aまで上がった経験豊富な選手なのですが、それでも何度も何度も首を振って、自分のピッチングを絶対に崩しません。

また、ある意味ではシーズンよりも重要でハードなオフシーズンのルーティーンについても聞いてみました。

彼の場合、最後の試合が終わってから1月まではボールを握らないそうです。その代わり、かなり重めのリフティングをして、徹底的に筋力をアップさせます。

そして、2月から遠投を始めて肩を作り、3月と4月にアマチュアの試合に参加し、5月のキャンプに万全の状態で入る流れだそうです。

ぼくの場合、日本では所属チームもグラウンドもブルペンもなく、初めてマウンドで投げるのがキャンプのときなんだけど、それでは遅くないか?と聞いたら、「必ずしもそうではない。」と言いました。

その理由は、ピッチャーにとって一番重要なことは、キャンプまでに“マッスル・メモリー”を作ることだからだそうです。

マッスル・メモリー?初めて聞く言葉だなぁ‥としばらく考えてしまいましたが、これ実はとってもとっても重要なことなんです。

みなさんにも思い出ってありますよね?良い思い出や悪い思い出などたくさんあると思いますが、それはすべて頭の中、脳の中に記憶されていると思います。

しかし、ピッチャーには、それを“筋肉”に記憶させる必要があるんです。

ストライクとボールのときの筋肉の違い、早い球と遅い球のときの筋肉の違い、それを体に覚えさせるためにオフシーズンの投げ込みが必要だと言うんです。

だから、筋肉がしっかりと自分のベストピッチを覚えられるのなら、オフシーズンにブルペンに入れなくても遠投などで補えると言うんです。

彼に、あなたのベストピッチは何か?と質問したら、彼は「その日一番のストライクだ。」と答えました。初めて受ける回答です。

マッスル・メモリーでベストピッチを投げ込むとなれば、毎日の筋肉の状態によって差が出るわけで、必ずしも前回のベストピッチが今日のベストピッチになるわけではないというのも理に適っています。

「その日の体調やコンディションによってその日一番の球を捜し、その球で勝負する。」それが、どんな状況でも良いパフォーマンスをするための秘訣だそうです。

ピッチングコーチの立場からしても、キャンプで彼らが求めるのは、いつでもシーズンに突入できる生きの良い選手だということなので、マッスル・メモリーをしっかり作ってくるよう言われました。

本当に、彼の一言一言がとても勉強になるし、まったく自分にはない知識が次々と出てくるので、やはり経験豊富な人とコミュニケーションを取ることはとても大切なことなんだなと思います。

ただ、そうは言っても、彼はもうこんな厳しい環境の中で12年も野球をやってきています。だから、彼はシーズン最終日に、「もう俺は疲れたよ‥。来年のことは聞かないでくれ。」とぼくに言いました。

若い頃は、シーズンが終わってもあと1ヶ月あと1シーズンでもかかって来いと思ったらしいのですが、ここ何年かは少し休みたいと思うそうです。

やはり、野球をずっと続けるには、技術でも体力でもなく、野球への“情熱”が一番大切なんだなと彼を見て思いました。ぼくには、まだその情熱がたっぷりあるので、この辺は大丈夫そうです。

しかし、どうしても聞いておきたいことがあったので、最後に質問してみました。それは、今でも、自分がメジャーで投げられると思うか?ということです。

そしたら、彼は、もちろん“Yes”と答えました。「プロとしてユニフォームを着ている以上、その可能性はゼロではない。そうだろ?」と聞き返されました。もちろん、その通りです。ぼくの代理人もいつも言っています。「世の中に0%はない。自分が一歩でも前に踏み出せば、それが1%になる」と。

長々と書いてしまい申し訳ありませんが、彼との思い出はまだまだ書き足りないぐらいたくさんあります。最後に彼は、見送りの車の中で、不甲斐ない成績のぼくにこんな言葉をくれました。

Keep going until you get a job.”「仕事を手に入れるまで絶対にあきらめるな!」この場合の“仕事”とは、メジャーのマウンドを指します。

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コメント

こんにちは!やっぱりたくさん経験しているピッチャーの言葉は重みがあってすごく身にしみますね。「プロとしてユニフォームを着ている以上、その可能性はゼロではない。」本当にその通りだと思います。僕も
体格を理由にバカにされないようなピッチャーになりたいです。落合さん、来シーズンもケガなくそして、Majorにつながるように頑張ってください。日本から応援してます。

投稿: sho | 2007年9月 8日 (土) 12時09分

はじめまして。いつも応援ありがとう。
返信の仕方がわかったので始めてコメントします。

ブログみたよ!がんばってますね。
ぼくにとっても彼の存在はとても大きかったよ。

ベストピッチは“その日一番のストライク”なんて
なかなか言えないよね?

どんな状況でも自分の好きな球や得意な球に
頼っちゃうところがあったなぁ‥。反省してます。

でも、ぼくにとってはSho君の応援も同じぐらい
大きな存在です!

秋の大会もテストも絶対手を抜かず楽しんで
ください。応援してます。

投稿: Yoh | 2007年9月 9日 (日) 00時39分

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