Body+Translation
先週末は、2日間続けて投げ込みをし、痛みや違和感なく250球を投げることができました。
みなさんの励ましやアドバイスのおかげで、肩の調子は徐々に回復しつつあります。
この冬は、昨シーズン突きつけられた課題や肩痛の克服などでいろいろなトレーニングを取り入れ、自分自身初めての体験や新たな知識をたくさん得ることができました。
そんな中で、今回は、野球選手として、人間として「体ってなんだろう?」と本気で考えさせられたトレーニング、そしてこの肩痛克服に多大なきっかけを与えてくれたトレーニング“PNF”を紹介したいと思います。
PNFとは、Proprioceptive Neuromuscular Facilitationの訳で、日本語では固有受容性神経筋促通法と呼ばれています。
その定義は、固有受容器を刺激することによって、神経筋機構の反応を促通する方法と定義され、末梢神経疾患のみでなく、中枢神経疾患の治療としても用いられることが大きな特徴とされています。
また、固有受容器とは、位置、動き、力の受容器のことで、関節包の受容器、靭帯の受容器のほかに、筋紡錘、腱紡錘、関節上の皮膚の動き受容器をさし、これらの受容器の刺激の方法として関節の圧縮・牽引、筋の伸張、運動抵抗、PNF運動開始肢位などがあげられています。
以上のように、医学的・生理学的な観点からPNFを理解しようとすると私たち素人にはまったく理解できず、また日常生活においてもほとんど馴染みのない言葉だと思います。
歴史的に見れば、1940年代から50年代にかけてアメリカで理論構築され後遺症疾患者に対するリハビリテーションとして開発れたもので、近年はスポーツ傷害もその対象となり野茂英雄投手や松井秀喜選手も取り入れて話題となりました。
PNFの最大の特徴は、もともとリハビリテーションとして開発されたこともあり、基本的には自分は寝ているだけで、プロのトレーナーが体を勝手に操作してくれることにあるとぼくは感じています。
ですから、体を動かす運動でありながら選手は寝ているだけで良いというなんともありがたいトレーニング方法なんです。
では、なぜ一見すると楽にも思えるこのトレーニングが私たちにとってとても重要なのかと言うと、それはこの治療法を理論構築したハーマン・カバット博士の言葉にヒントがあります。
彼は、「人は、生まれながらにしてできることに限りがあると共に、潜在能力が存在する。PNFは、その潜在能力を引き出すための理論、哲学である。」と定義しています。
潜在能力とは、内に潜んで存在する生まれながらにして持った能力のことですが、私たちがその能力を100%発揮して日々過ごしているかと言えば、その答えはNoです。
私たちは、40%~60%の力で日々生活していると言われているからです。日ごろから100%の力を出すと筋肉の損傷が激しくなるため、脳から抑制がかけられています。
例えば、重量挙げの選手と自分を比較してみると、ぼくとだいたい同じ男子69kg級のチャンピオンは、300kg以上のバーベルを持ち上げます。
それに対して、ぼくはベンチプレスでせいぜい60kg程度です。仮に、お互いの体脂肪率や身長が同じだとすれば、筋量はほとんど変わりません。
教科書の上では、筋出力は筋肉の断面積に比例すると言われていますので、私たちは同じ力を発揮することができるはずです。しかし、ぼくたちには5倍以上の差が出ています。
それはなぜか?答えは、ぼくが自分の能力を最大限に発揮していないからです。発揮していないというよりは、できないんです。
筋出力を上げるには、連動、神経、伸縮が上手く機能する必要があります。
体の連動は、投球動作で言えば、下半身で生み出したエネルギーを上手く上半身に伝え、ロスなくボールに伝えるための体の動きです。
神経は、運動神経と呼ばれ、筋繊維と直接つながって筋繊維を動員させる命令を送ります。
筋肉は筋繊維のかたまりですから、多くの筋繊維を動因させられた方がより多くの力を生み出します。
神経は脳からの命令を伝えますから、脳の影響を多く受けます。例えば、好きな人を想像しながら力を入れるのと嫌いな人を想像しながら力を入れるのでは、入り方がぜんぜん違います。試してみてください。
最後は、筋肉の伸縮です。筋肉は自主的に縮みますが、自主的には伸びません。弛緩と言ってリラックスしたときにだけ伸びます。
ですから、伸張反射と言って、伸ばした筋肉をすばやくもとに戻し力を発生させる動きが必要になります。
ボディビルダーのように太く硬い筋肉では早い球を投げることはできません。
これらの要素をトレーニングできるのがPNFストレッチです。
トレーナーから正しい姿勢や体の使い方を学ぶことで体に連動が生まれます。そうなると、操り人形のように腕を操作されただけで、勝手に骨盤が動き足がつられて前に出て行きます。
また、トレーナーに決まった動きを導かれることで神経がその命令を覚え、筋肉がその動きを覚えます。そして、筋繊維を総動員するための神経伝達をコントロールすることも可能になります。
そして、筋肉の伸縮です。重い負荷を背負って終止筋肉を硬直させるのではなく、輪ゴムのようにグッと伸ばしてあげると自然に戻って行くように戻るときに負荷を抜いてあげます。
すると、例えばピッチングのテイクバックのようにグッと後に腕を引き付け筋肉を伸ばしてやると勢い良く戻り腕が勝手に前へ振られます。
こうようなことを目的としてPNFを行っていましたので、言いかえればこのようなことを意識しながらピッチングができるようになったんです。
トレーニングをする前の準備、マウンドに上がる前の準備、人間として体を適切に使ってあげるための準備をPNFから学びました。
毎週一度しかない貴重な休みをぼくのためにボランティアで見てくれているトレーナーをみなさんにも紹介したいのですが、残念ながら仕事の関係上それはできません。
でも、ここで言いたいのは、ぼくは彼を心から尊敬しています。
仕事中はもちろん遊んでいても、ときには研修中?(笑)でも勉強を欠かさず、常に何かを学び取ろうとする姿勢は見習うべきことだと感じていますし、そう簡単にできることではありません。
ゆくゆくは彼流の新しいトレーニング理論を作り出そうという目的意識をもって接してくれているので、新たな発見の参考になればと毎日与えられた課題をこなすことで恩返ししています。
トレーニングが終われば、博多弁を話すやさしい気さくなお兄さんです。いつも一緒にいてとても楽しくトレーニングができとても幸せです。
彼の哲学は、“トレーナーは翻訳者”です。体で何かを感じることにはすぐれたアスリートも、それを言葉で表現するのはなかなか難しいものです。
彼に、その漠然とした気持ちを伝えるとすぐに分かりやすい言葉で翻訳してくれ、その問題を解決するための方法を与えてくれます。そして、体で体験させてくれます。
コマネチだって、そんなの関係ねぇだって、アホの坂田歩きだって、彼の手にかかればなんでも運動生理学のテキストになってしまいます。
お笑い界で生み出される多くのギャグが、人間の身体構造上、作られるべくして作られたギャグだということです。
まさに、彼は体の翻訳者なんです。
このきっかけを更なるステップアップにして進化した落合陽のピッチングを完成させ、1日でも早くメジャーのマウンドで彼に最高の恩返しをしたいと思っています。
ここに書いたことは悪までも独学で学び、教えていただいた知識を自分なりに解釈し、理解したものです。
PNFに興味がある方は、ぜひ勉強してみてください!
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント